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東京地方裁判所 昭和35年(ワ)678号 判決 1961年12月13日

原告 藤倉ゴム工業株式会社

右代表者代表取締役 松本重男

右訴訟代理人弁護士 田辺恒之

<外三名>

被告 株式会社和田商店

右代表者代表取締役 和田善吉

右訴訟代理人弁護士 久々湊与一郎

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、原告がその主張のごとき被告振り出しの額面金額五十万円の約束手形の交付を受け、支払期日に呈示したところ、支払いを拒絶せられたことは当事者間に争いがなく、その後被告が右約束手形金のうち二万千三百九円を支払つたことは原告の認めるところである。

二、そこで被告の相殺の抗弁に関して、被告主張の自動債権の存否について判断する。

先づ靴紐等売掛債権三万七百円(被告主張(五)の1)の存否について判断するに、証人小倉英二の証言及びこれによつて真正に作成せられたことが認められる乙第十五号証、証人大畑巌の証言及びこれによつて真正に作成せられたことが認められる甲第二、第三号証、証人秋山好弘、同和田常吉の各証言を綜合すると、被告が昭和三十四年四月十五日現在、原告に対して右売掛債権を有していたことが認められるけれども、原告は同年四月二十日被告に対するパーシユーズ売掛代金債権のうち対等額を以て相殺決済し、被告の靴紐等売掛債権は既に存しなかつたことが認められる。

次にトーシューズ試作費十二万五千六百五十二円の償還請求債権(被告主張(五)の2)の存否について判断するに、証人小倉英二、和田常吉の各証言を以てしては、未だ右債権の存在を認めえず、却つて証人大畑巌の証言及びこれによつて真正に作成せられたことが認められる甲第四、五号証、証人藤田正弘、岡田浤一の各証言によれば、証、証原告が被告に注文したトーシューズ試作品はすべて原告が買い受け決済されていることが認められる。

次に返品による代金返還債権(被告主張(五)の3)については証人和田常吉の証言の外これを認めるに足る証拠がなく右証拠を以てしては未だ右債権の存在を認めるに足りない。

次に九十万円の得べかりし利益を喪失したとする損害賠償債権(被告主張(五)の4)の存否について判断する。

原告がゴム製品製造会社、被告が運動靴製造販売会社であること、原告が昭和三十年八月五日以降ゴルフ靴パーシユーズを被告に対して継続して卸し売りをなし、昭和三十年中は三千六百足、昭和三十一年中は六千八百七十九足、昭和三十二年中は五千八百十一足、昭和三十三年中は五千百四十九足の取引きがあつたこと、被告が右パーシユーズを販売した場合一足について二百円の利益を挙げえたこと、原告が昭和三十年末までの間被告以外に卸し売りしたパーシユーズについては一足百円の割合の利益を被告に支払つたこと、原告が昭和三十四年四月頃、被告に対するパーシユーズの卸し売りを止めたことはそれぞれ当事者間に争いがない。

原告は右卸し売りの停止の理由として被告が右パーシユーズと不正競争の目的を以て自己製造の皮革製ゴルフ靴オーナーシューズを同一価額で販売しパーシユーズの売れ行きを滅少せしめたことを不信行為として本件契約を解除したものであると主張するので果して本件契約が有効に解除せられたか否かについて考えるに証人和田常吉の証言及びこれによつて真正に作成せられたことが認められる乙第一号証から第十号証の各一、二、第十一号証第十二号証証人岡田浤一、佐藤久一朗の各証言並びに原告会社代表者中尾恕尋問の結果によれば前掲争いのない事実の外原告は前記パーシユーズ製品のうち九十%を被告に卸し売りし、被告は自己を総発売元として顧客に対しパーシユーズの宣伝流布に務めたこと、宣伝方法は、ゴルフ雑誌に広告を掲載し、デパートにパンフレツトを配布し或いは得意先を紹待する等すべて自己の負担でしたこと、原告は昭和三十二年末頃今迄の綿製品パーシユーズをナイロン製に切り替え、小売価額二千五百円で市販することとしたが、被告は同じ頃スポーデン商会から自己製造の皮革製ゴルフ靴オーナーシューズを販売して居りこの小売価額を右ナイロン製パーシユーズと同価額に値下げした為、原告も右パーシユーズの値下げをせざるをえなくなつたこと、原告は被告の右値下げ行為を原告に対する不信行為として昭和三十四年四月頃突然被告に対するパーシユーズの卸し売りを取り止めかねて被告から提出させた得意先名簿に基き新たにミラチ商会をして一手販売させることとしたこと、被告は同年六月から七月の間に原告に対しパーシユーズの卸し売りを継続して貰いたい旨申入れたが、原告は被告がオーナーシューズの製造を止めない限りは取引きを再開しないと拒絶したことがそれぞれ認められる。原告会社代表者中尾恕尋問の結果のうちこの認定に反する部分は採用しない。

前記当事者間に争いない事実と右認定事実に徴すれば、原告のなした右卸し売り停止の措置は本件取引契約が有効に解除せられたことに基くものとは認め難い、けだし本件のごとき継続的な取引契約にあつては契約の存続を著るしく困難ならしめる不信行為なき限り、一方的な解除はなしえないと解すべきであり特に本件取引契約に基く双方の利益を増大させるについて宣伝費の負担等被告の寄与した点が大きいことを考えると被告の為契約の安定性を確保することが原告に対し信義則上要請せられるからである。しかして被告が自己製品オーナーシューズの小売価額をパーシユーズと同価額に値下げしたことは自由競争の範囲として是認せられるべきで不正競争とはいい難く根拠の認められる警告を要しないで一方的に解除をなしうる解除原因とは認めることができない。

従つて右不法な解除によつて被告が蒙つた損害は原告において賠償すべきものであるところ、前掲証拠によれば被告は昭和三十四年四月以降も一ヶ年最少限度三千足の販売をなしうることが認められ他に反証がないから、当事者間に争いのない一足二百円の利益(証人和田常吉の証言によればこの額は販売経費を控除したものと認めることができる)を基礎として算出すると、被告は昭和三十五年三月末まで一ヶ年の間に六十万円の得べかりし利益を喪失したものということができる。しかして被告が昭和三十五年四月七日本訴の第二回口頭弁論期日において答弁書の陳述を以て、右損害賠償債権を自動債権として本件約束手形金債務と対等額で相殺の意思表示をなしたことは記録上明らかであるから、同日限り本件約束手形金債務は消滅したものと認めることができる。

そうすると、本件約束手形金四十七万八千六百九十一円の支払いを求める本訴請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用した上主文のとおり判決する。

(裁判官 田辺博介)

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